前川さんコラム
心を閉ざして生きていることは苦しいことですね。ココカラに来る若者たちは、
みんな心を閉ざした状態でやってきます。これまでの生育環境(親子関係や友達と
の関係性)の中で、自分を思いっきり出せなかった、または、自分を出した際に否
定されたり傷ついた経験があるから、そうなっているんだと思っています。
心を閉ざしていると、こんな風に考えてしまいませんか?相手に言いたいことが
言えない。言ったら嫌われるかもしれない。ありのままの自分を出してみたいけど
自信がない。自分を出して嫌われるくらいなら、出さないで我慢していた方がいい。
どうせ私なんて生きている価値ない。
こうした考え方で生きていると、心が疲れてしまって、心の病気になってしまい
ます。そして、心の病気はいくら薬を飲んだところで治りません。孤独に一人でい
ても治りません。人と人との繋がりの中で、ゆっくりじっくりと治っていくものな
のです。そのためには、安心して人間関係を持てる場所が必要なんですね。
ココカラは心をオープンにしていく練習ができる環境です。ココカラには、「人
間関係8つのルール(否定しない・抑圧しない・強制しない・差別しない・比較し
ない・放置しない・孤立させない・傷つけない)」があります。スタッフも利用者
さん(うちではメンバーと呼びます)も、これを守ってお互いにコミュニケーショ
ンを行うので、安心して自分を出す練習ができます。
とは言っても、心を閉ざしていることに慣れてしまったメンバーが、自分を表現
していくまでにはとっても時間がかかるものです。心の病気、心が不安定な状態、
自己否定感情からの回復のためには、まず最初の段階として、「安心できる環境で」
「心をオープンにして」「自分らしさを表現していく」ことが、第一歩なのです。
第1回 心をオープンにして、自分らしさを表現していく
私たちが生きるこの世界には「この世的な価値観」が
たくさん存在しています。「この世的な価値観」とは、
「◯◯するべき」とか「◯◯したほうがいい」といった
ものです。そして、これらに囚われてしまうと、多くの
場合、心が病み、生きることが苦しくなってしまいます。
楽しいといった感情や、喜びを感じることが少なくなっ
てしまいます。
「この世的な価値観」の代表的なものが、「勉強でき
る子は偉い、勉強できない子は努力しないとダメ」とい
うものです。これによって学校では、勉強が得意な子は
高慢となり、逆に勉強できない子は自分を卑下するよう
になってしまいがちです。
「学校には毎日ちゃんといくべき」という価値観もあ
りますね。様々な理由があって、学校に行けない子ども
たちは、この価値観によって苦しみます。親もこの価値
観に囚われていると、本人の気持ちに寄り添うことを忘
れて、学校に行くように子どもにプレッシャーを与えて
しまうでしょう。
そして、勉強ができない、学校に行けないことを理由
に、多くの子が自分を卑下し、自分を否定するようになっ
ていくのです。こうした姿を見ることが、僕にとっては
一番苦しいものです。
ここで気付いていただきたいのは、別に勉強ができな
くても、学校に毎日行けなくても、その子は一人の人間
として尊重されるべき存在だということです。成績や出
席日数で、他人から評価されるこの世界の方が、何かお
かしいということに気づいてください。
人はそれぞれ異なった外見や気質、環境で生まれてき
ますよね。つまり、人はみんな、個々にオリジナルな存
在なのです。みんな違っていて、それで良いのです。そ
れなのに、人が自分のオリジナリティーを抑え込んで、
「この世的な価値観」に合わせて生きることになってし
まったために、みんな生きづらさを感じ、心のバランス
が不安定になってしまっているのです。
ハッキリ言ってしまえば、「この世的な価値観」を作っ
ている側には、必ず意図があります。誰かを都合よくコ
ントロールしようとしているのです。そのカラクリに気
づいて、そこから抜け出すことが必要なのです。人は誰
かにコントロールされるために生きているのではありま
せん。自分の本心に正直に生きることが大切だと思いま
す。
ココカラでは、こうしたことをしっかりと伝えていき
ます。一人ひとりが、なぜ自分が生きづらさを感じてい
たかに気づくこと。そして、この世界がどういう仕組み
で動いているのかを知ることです。それらに気づいて、
物事の捉え方や生きる姿勢を変えることができた人は、
いつの間にか心の病気が自然と治っていくものなのです。
第2回 「この世的な価値観」に囚われないで
心の不安定さや自己否定感情などの精神的な悩みや苦
しみは、ほぼ例外なく人間関係が原因となっていると考
えられます。
その人間関係の大元となっているのが、親子の関係性
です。乳児期、幼少期からの母親・父親との関係性を積
み重ねたものが、今の本人の人間関係の土台となってい
るためです。ですから、大人になってから第三者と接す
る際にも、親子の関係性が他人との関係性に投影される
のです。
例えば、小さい頃から親に否定されたり、厳しく叱ら
れてばかりで育った子どもは、親以外の人と対峙したと
きにも「この人は私を否定してくるのではないか、叱る
のではないか。」という不安や疑いといった先入観を持っ
てしまうものです。
親の顔色ばかり見て育った子どもは、大人になってか
らも他人からの目や評価を気にしてしまうため、いつも
ビクビクして落ち着くことがなかなかできません。
母親が心配性で、過保護な環境下で育てられた子ども
は、自分の力で意思決定することが苦手であったり、他
人に依存したり、怠けやすい傾向があります。
親があまり関与してくれなかった、放置されていたと
感じている子どもは、どうせ私になんて関心を持ってく
れないという根深い想いが残っており、自己重要感が低
い傾向や、他人を信頼しにくい傾向が見受けられます。
反対に、両親から愛情豊かに信頼してバランス良く育
てられた子どもは、他人と接する時も自然と愛情豊かに、
相手を信頼して接することができるものです。そして何
より、そういった子どもは、自己承認(自分に自信を持っ
ている)ができているのです。
このため、私たちの施設では、本人だけでなくご家族を
含めての支援活動を行っています(ご家族のご協力があ
る場合です)。ほとんどのケースにおいて、家族関係の
見直しを行うことで、本人の精神的病状は大きく改善し
ていくものです。
家族関係の一つの目安としては、相手に対して本音を
言えるかどうか。そして、その本音を相手が否定せずに
きちんと正面から受け止めてくれるかどうか。この2点を
達成していくことが重要だと感じています。ここから家
族の修復が少しずつ始まっていくのです。
親子関係は、親子双方の同意があれば、時間はかかり
ますがきちんと修復できるものです。重度の精神的疾患を
患っていた方も、親も本人も努力した結果、病気も完治
し、薬も断薬できて、今では元気に働けています。本人と
両親の、あきらめない心と覚悟と努力があれば、心の病
気はちゃんと改善していくものだと、私たちは信じてい
ます。
第3回 家族関係を見直す
第1回 心をオープンにして、自分らしさを表現していく
第2回「この世的な価値観」に囚われないで
第3回 家族関係を見直す
PROFILE
前川 航太朗 1981年、茨城県水戸市生まれ。
大卒後、水戸市役所に入庁し10年間勤務。市役所在職中に、パキスタンの子どもと女性のための教育普及支援を目的としたNPO法人SOLUNARCHEを立ち上げ共同代表理事を務める。市役所を退職して同NPO法人活動に専従となるも、半年後には活動停止となる。
帰国後、2014年4月に株式会社Rememberを設立。「ひきこもり若者」を対象とした訪問活動を1人でスタートし、現在は障害福祉サービス事業所として、通所施設、宿泊施設を含めた3事業所の運営を行なっている。
今後は、次世代の子どもたちの心の拠り所となる環境づくりを目指して、フリースクールやコミュニティづくりを計画している。
不登校やひきこもり、心の病気の改善やケア、子育てなどのテーマについての講演多数。