前川さんコラム
第1回 心をオープンにして、自分らしさを表現していく
第2回「この世的な価値観」に囚われないで
第3回 家族関係を見直す
第1回 心をオープンにして、自分らしさを表現していく
心を閉ざして生きていることは苦しいことですね。
ココカラに来る若者たちは、みんな心を閉ざした状態で
やってきます。これまでの生育環境(親子関係や友達と
の関係性)の中で、自分を思いっきり出せなかった、ま
たは、自分を出した際に否定されたり傷ついた経験があ
るから、そうなっているんだと思っています。
心を閉ざしていると、こんな風に考えてしまいません
か?相手に言いたいことが言えない。言ったら嫌われる
かもしれない。ありのままの自分を出してみたいけど自
信がない。自分を出して嫌われるくらいなら、出さない
で我慢していた方がいい。どうせ私なんて生きている価
値ない。
こうした考え方で生きていると、心が疲れてしまって、
心の病気になってしまいます。そして、心の病気はいく
ら薬を飲んだところで治りません。孤独に一人でいても
治りません。人と人との繋がりの中で、ゆっくりじっく
りと治っていくものなのです。そのためには、安心して
人間関係を持てる場所が必要なんですね。
ココカラは心をオープンにしていく練習ができる環境
です。ココカラには、「人間関係8つのルール(否定し
ない・抑圧しない・強制しない・差別しない・比較しな
い・放置しない・孤立させない・傷つけない)」があり
ます。スタッフも利用者さん(うちではメンバーと呼び
ます)も、これを守ってお互いにコミュニケーションを
行うので、安心して自分を出す練習ができます。
とは言っても、心を閉ざしていることに慣れてしまっ
たメンバーが、自分を表現していくまでにはとっても時
間がかかるものです。心の病気、心が不安定な状態、自
己否定感情からの回復のためには、まず最初の段階とし
て、「安心できる環境で」「心をオープンにして」「自
分らしさを表現していく」ことが、第一歩なのです。
第2回「この世的な価値観」に囚われないで
私たちが生きるこの世界には「この世的な価値観」がたくさ
ん存在しています。「この世的な価値観」とは、「◯◯するべ
き」とか「◯◯したほうがいい」といったものです。そして、
これらに囚われてしまうと、多くの場合、心が病み、生きるこ
とが苦しくなってしまいます。楽しいといった感情や、喜びを
感じることが少なくなってしまいます。
「この世的な価値観」の代表的なものが、「勉強できる子は
偉い、勉強できない子は努力しないとダメ」というものです。
これによって学校では、勉強が得意な子は高慢となり、逆に勉
強できない子は自分を卑下するようになってしまいがちです。
「学校には毎日ちゃんといくべき」という価値観もあります
ね。様々な理由があって、学校に行けない子どもたちは、この
価値観によって苦しみます。親もこの価値観に囚われている
と、本人の気持ちに寄り添うことを忘れて、学校に行くように
子どもにプレッシャーを与えてしまうでしょう。
そして、勉強ができない、学校に行けないことを理由に、多
くの子が自分を卑下し、自分を否定するようになっていくので
す。こうした姿を見ることが、僕にとっては一番苦しいもので
す。
ここで気付いていただきたいのは、別に勉強ができなくて
も、学校に毎日行けなくても、その子は一人の人間として尊重
されるべき存在だということです。成績や出席日数で、他人か
ら評価されるこの世界の方が、何かおかしいということに気づ
いてください。
人はそれぞれ異なった外見や気質、環境で生まれてきますよ
ね。つまり、人はみんな、個々にオリジナルな存在なのです。
みんな違っていて、それで良いのです。それなのに、人が自分
のオリジナリティーを抑え込んで、「この世的な価値観」に合
わせて生きることになってしまったために、みんな生きづらさ
を感じ、心のバランスが不安定になってしまっているのです。
ハッキリ言ってしまえば、「この世的な価値観」を作ってい
る側には、必ず意図があります。誰かを都合よくコントロール
しようとしているのです。そのカラクリに気づいて、そこから
抜け出すことが必要なのです。人は誰かにコントロールされる
ために生きているのではありません。自分の本心に正直に生き
ることが大切だと思います。
ココカラでは、こうしたことをしっかりと伝えていきます。
一人ひとりが、なぜ自分が生きづらさを感じていたかに気づく
こと。そして、この世界がどういう仕組みで動いているのかを
知ることです。それらに気づいて、物事の捉え方や生きる姿勢
を変えることができた人は、いつの間にか心の病気が自然と
治っていくものなのです。
第3回 親子関係の修復が鍵です
心の不安定さや自己否定感情などの精神的な悩みや苦しみ
は、ほぼ例外なく人間関係が原因となっていると考えられま
す。
その人間関係の大元となっているのが、親子の関係性です。
乳児期、幼少期からの母親・父親との関係性を積み重ねたもの
が、今の本人の人間関係の土台となっているためです。ですか
ら、大人になってから第三者と接する際にも、親子の関係性が
他人との関係性に投影されるのです。
例えば、小さい頃から親に否定されたり、厳しく叱られてば
かりで育った子どもは、親以外の人と対峙したときにも「この
人は私を否定してくるのではないか、叱るのではないか。」と
いう不安や疑いといった先入観を持ってしまうものです。
親の顔色ばかり見て育った子どもは、大人になってからも他
人からの目や評価を気にしてしまうため、いつもビクビクして
落ち着くことがなかなかできません。
母親が心配性で、過保護な環境下で育てられた子どもは、自
分の力で意思決定することが苦手であったり、他人に依存した
り、怠けやすい傾向があります。
親があまり関与してくれなかった、放置されていたと感じて
いる子どもは、どうせ私になんて関心を持ってくれないという
根深い想いが残っており、自己重要感が低い傾向や、他人を信
頼しにくい傾向が見受けられます。
反対に、両親から愛情豊かに信頼してバランス良く育てられ
た子どもは、他人と接する時も自然と愛情豊かに、相手を信頼
して接することができるものです。そして何より、そういった
子どもは、自己承認(自分に自信を持っている)ができている
のです。
このため、私たちの施設では、本人だけでなくご家族を含め
ての支援活動を行っています(ご家族のご協力がある場合で
す)。ほとんどのケースにおいて、家族関係の見直しを行うこ
とで、本人の精神的病状は大きく改善していくものです。
家族関係の一つの目安としては、相手に対して本音を言える
かどうか。そして、その本音を相手が否定せずにきちんと正面
から受け止めてくれるかどうか。この2点を達成していくこと
が重要だと感じています。ここから家族の修復が少しずつ始
まっていくのです。
親子関係は、親子双方の同意があれば、時間はかかりますが
きちんと修復できるものです。重度の精神的疾患を患っていた
方も、親も本人も努力した結果、病気も完治し、薬も断薬でき
て、今では元気に働けています。本人と両親の、あきらめない
心と覚悟と努力があれば、心の病気はちゃんと改善していくも
のだと、私たちは信じています。
PROFILE
前川 航太朗
1981年、茨城県水戸市生まれ。
大卒後、水戸市役所に入庁し10年間勤務。市役所在職中に、パキスタンの子どもと女性のための教育普及支援を目的としたNPO法人SOLUNARCHEを立ち上げ共同代表理事を務める。市役所を退職して同NPO法人活動に専従となるも、半年後には活動停止となる。
帰国後、2014年4月に株式会社Rememberを設立。「ひきこもり若者」を対象とした訪問活動を1人でスタートし、現在は障害福祉サービス事業所として、通所施設、宿泊施設を含めた3事業所の運営を行なっている。
今後は、次世代の子どもたちの心の拠り所となる環境づくりを目指して、フリースクールやコミュニティづくりを計画している。不登校やひきこもり、心の病気の改善やケア、子育てなどのテーマについての講演多数。